計画立案は11月。
それから約2ヶ月。
仲間を集め、場所の押さえやメニュー決め、試作、試食を経て、一度はダメだしされたものの、どうにかこうにか、1日カフェを予定通り行えることが決まった。
内容にも値段にも、散々モメて出来たメニューがこちら。
俺はどうしても、自分の作ったケーキを売りたかった。
だって、1つでも売ったらもうプロと言えるじゃん?パティシエじゃん?
でも、人様にお金を取って提供する以上、最低限のクオリティは必要じゃん?
という訳で、俺の持ちネタの中から、もっとも確実性が高いと思ったシフォンケーキを出す事にしたわけです。
これが悪夢の始まり始まりーでございました。
まず、プロのシフォンケーキというものを知る為に、ネットで1ホール注文してみました。輸送に備えたラッピング方法とかも、知りたかったしね。
届いてから、様々な角度から観察した。
味に関しては、あんまり遜色無い。けどやっぱり形が綺麗なところが、決定的に違う。しっかり立ってるし、断面を見ても大きな穴なんて無いしね。
ふむ、この品質のものを作ればいいのですな?
悪いけど正直、楽勝じゃね?とか思ってた。俺のシフォンは、形はあんまりよくないけど、味はいいし。店と違って採算度外視なんで当たり前っぽい気もするけども。
あとは形さえ整えればいいんでしょ?
そしてカフェ2週間前に、真剣にシフォンを焼いてみた。当日大阪まで移動することを考えて、型に入れたまま運べるように、紙の型を買って、それを使って焼いた。焼いた。焼いた。
うん、何回作っても失敗。ひどい有様。
縮みすぎたり、中に大きな空洞が出来ていたり。
そんな馬鹿なー!
シフォンケーキなんて、今まで失敗なんてほとんどしたことが...まてよ?
そもそも今まで、家族や友人に振舞うことしかしてこなかったので、真剣に「商品」として作ったことが無かった。けど、よくよく考えたら昔っから空洞化現象はあったような気がしてきた。
たまたま上手く行った事もあったけど、上手く行かないまま、「まぁ味はいいしー」とかって振舞って、食べてもらってきたような気がしてきた。ってか間違いないわ。
そしてこの二週間。毎日シフォンケーキを焼いた。
仕事で深夜に帰ってからでも、毎日焼いた。毎日ほぼ失敗した。
もちろん、いたずらに作っていたわけでは決して無くて、毎回失敗の原因を考えて、それを解消するべく対策を講じてきたにもかかわらず、失敗につぐ失敗。
先日学校でパティシエ先生に薦められて買った、「科学でわかる お菓子のなぜ?」も何度も何度も繰り返し読んだ。
シフォンケーキの命である、メレンゲについても、数限りない動画を見まくった。
これとか10回ぐらい見た。
卵白をあわ立てて作るメレンゲが、どの状態がベストなのかが全然わからず、もう完全に試行錯誤。ある人は「角が立つぐらい」というし、ある人は「ミキサーに付けて持ち上げたときにおじぎしない程度」とかいうし。例えば明確に「メレンゲ硬度 4.02ンゲ」とかいう数値で表すことができればいいのに、そういうのが比較的出来にくい世界なので、もうひたすら試してみるしかない。完全にトライアンドエラー。
なんだかブラックボックステストみたいでした。
お菓子って化学反応を利用しているから、正解の方程式は必ずあるはずなんです。ただし、一つ一つは科学で説明できる要素であっても、それらが複数絡まるからやっかいなんですよね。
例えば、砂糖には甘くするだけでなく、メレンゲのあわ立ちを抑える力もあるんです。これをどのタイミングでどの程度入れるかによって、メレンゲのあわ立ち具合も大きく変化します。
その後に卵黄をからめるわけですが、卵黄のほうが比重が大きいので、そのまま混ぜるとメレンゲの泡がつぶれてしまいます。そうならない為に、まずメレンゲの一部を卵黄になじませて...というような、化学反応を知った上での対処が必要になってくるんです。
こういう「なぜそうするのか」なんて、上手く行っていれば考えなくていいんですが、レシピどおりに作っているはずなのに失敗するとなると、こういうことを考えざるを得ないわけです。
お菓子は失敗すると商品価値はゼロなので、失敗原因を推察して、毎回新しい技を試していました。毎晩、オーブンの前で一喜一憂していました。
大体、お菓子のレシピは曖昧すぎる。
「卵白を混ぜながら、砂糖を3回に分けて入れます」
どのタイミングで入れればいいのかも分からないし、都度の分量も分からない。
「そんなもん試行錯誤してたどり着けよ俺達も苦労したんだからよ」
という、残念な後進の育成方針を貫く、老パティシエの皮肉な笑いを浮かべた顔が見えるようだわ。
試行錯誤の結果、俺が最終的にたどり着いたメレンゲの気持ちは。
角が立つぐらいで止めると、混ぜ不足。
かといってボソボソになるまでいくと混ぜ過ぎ。
ミキサーで混ぜていて、ミキサーから感じ取れるメレンゲの硬さが、少し重く変化し、その次にさらに重く変化した瞬間が、一番成功率の高いメレンゲでした。あかんわこの偽パティシエもダメだわ曖昧だわ。
人生で一番、シフォンケーキに真剣になった二週間でした。
累計で、卵50個以上消費しました。シンクが卵の殻だらけになってました。
前日。
プレーンのシフォンと、紅茶のシフォンをそれぞれ3つずつ焼く予定でした。
元々、ココアのシフォンを焼く予定を、難易度を下げてプレーンにしたというのに、成功率は5割程度。紅茶に限っては、ケーキの型がいつもより小さいことに気がつかず、分量間違いでえらいことに。全滅かもしれないけど、とにかく合計6個は焼いた。
俺は相当にヘコんだ。
みんなに「シフォン得意だし!」と大見得切ったのに。
あんなけ毎日練習したのに。
このどうしようもない結果。
仲間たちにメッセンジャーで「ごめんシフォン失敗しました部分的にしか使えないかもしれません本当に生まれてすみません」と連絡した。
即座にレスがあったので、恐る恐る開いてみたら、カットしてツリーみたいな形にしたらどうかとか、カットした部分を集めてクリームとヨーグルトなんかでパフェにするのも面白いかもーとかいうようなレスでした。
失敗した俺をなじるでもない。
慰めるでもない。
ならばケーキは諦めて料理をがんばりましょう的な言葉でもない。
現状を受け入れ、そこから何か出来ないかと提案してくれる仲間の言葉に、泣きました。多分、俺が一番欲しかった言葉だったと思います。
その言葉で、俺もようやく立ち直り、あれやこれやと対処法を考えられるようになりました。
仲間が優秀なら、組織のリーダーがカスでも素晴らしいチームとなる。カスリーダーの俺は、改めてそのことを強く感じました。
それから約2ヶ月。
仲間を集め、場所の押さえやメニュー決め、試作、試食を経て、一度はダメだしされたものの、どうにかこうにか、1日カフェを予定通り行えることが決まった。
内容にも値段にも、散々モメて出来たメニューがこちら。
俺はどうしても、自分の作ったケーキを売りたかった。
だって、1つでも売ったらもうプロと言えるじゃん?パティシエじゃん?
でも、人様にお金を取って提供する以上、最低限のクオリティは必要じゃん?
という訳で、俺の持ちネタの中から、もっとも確実性が高いと思ったシフォンケーキを出す事にしたわけです。
これが悪夢の始まり始まりーでございました。
まず、プロのシフォンケーキというものを知る為に、ネットで1ホール注文してみました。輸送に備えたラッピング方法とかも、知りたかったしね。
届いてから、様々な角度から観察した。
味に関しては、あんまり遜色無い。けどやっぱり形が綺麗なところが、決定的に違う。しっかり立ってるし、断面を見ても大きな穴なんて無いしね。
ふむ、この品質のものを作ればいいのですな?
悪いけど正直、楽勝じゃね?とか思ってた。俺のシフォンは、形はあんまりよくないけど、味はいいし。店と違って採算度外視なんで当たり前っぽい気もするけども。
あとは形さえ整えればいいんでしょ?
そしてカフェ2週間前に、真剣にシフォンを焼いてみた。当日大阪まで移動することを考えて、型に入れたまま運べるように、紙の型を買って、それを使って焼いた。焼いた。焼いた。
うん、何回作っても失敗。ひどい有様。
縮みすぎたり、中に大きな空洞が出来ていたり。
そんな馬鹿なー!
シフォンケーキなんて、今まで失敗なんてほとんどしたことが...まてよ?
そもそも今まで、家族や友人に振舞うことしかしてこなかったので、真剣に「商品」として作ったことが無かった。けど、よくよく考えたら昔っから空洞化現象はあったような気がしてきた。
たまたま上手く行った事もあったけど、上手く行かないまま、「まぁ味はいいしー」とかって振舞って、食べてもらってきたような気がしてきた。ってか間違いないわ。
そしてこの二週間。毎日シフォンケーキを焼いた。
仕事で深夜に帰ってからでも、毎日焼いた。毎日ほぼ失敗した。
もちろん、いたずらに作っていたわけでは決して無くて、毎回失敗の原因を考えて、それを解消するべく対策を講じてきたにもかかわらず、失敗につぐ失敗。
先日学校でパティシエ先生に薦められて買った、「科学でわかる お菓子のなぜ?」も何度も何度も繰り返し読んだ。
シフォンケーキの命である、メレンゲについても、数限りない動画を見まくった。
これとか10回ぐらい見た。
卵白をあわ立てて作るメレンゲが、どの状態がベストなのかが全然わからず、もう完全に試行錯誤。ある人は「角が立つぐらい」というし、ある人は「ミキサーに付けて持ち上げたときにおじぎしない程度」とかいうし。例えば明確に「メレンゲ硬度 4.02ンゲ」とかいう数値で表すことができればいいのに、そういうのが比較的出来にくい世界なので、もうひたすら試してみるしかない。完全にトライアンドエラー。
なんだかブラックボックステストみたいでした。
お菓子って化学反応を利用しているから、正解の方程式は必ずあるはずなんです。ただし、一つ一つは科学で説明できる要素であっても、それらが複数絡まるからやっかいなんですよね。
例えば、砂糖には甘くするだけでなく、メレンゲのあわ立ちを抑える力もあるんです。これをどのタイミングでどの程度入れるかによって、メレンゲのあわ立ち具合も大きく変化します。
その後に卵黄をからめるわけですが、卵黄のほうが比重が大きいので、そのまま混ぜるとメレンゲの泡がつぶれてしまいます。そうならない為に、まずメレンゲの一部を卵黄になじませて...というような、化学反応を知った上での対処が必要になってくるんです。
こういう「なぜそうするのか」なんて、上手く行っていれば考えなくていいんですが、レシピどおりに作っているはずなのに失敗するとなると、こういうことを考えざるを得ないわけです。
お菓子は失敗すると商品価値はゼロなので、失敗原因を推察して、毎回新しい技を試していました。毎晩、オーブンの前で一喜一憂していました。
大体、お菓子のレシピは曖昧すぎる。
「卵白を混ぜながら、砂糖を3回に分けて入れます」
どのタイミングで入れればいいのかも分からないし、都度の分量も分からない。
「そんなもん試行錯誤してたどり着けよ俺達も苦労したんだからよ」
という、残念な後進の育成方針を貫く、老パティシエの皮肉な笑いを浮かべた顔が見えるようだわ。
試行錯誤の結果、俺が最終的にたどり着いたメレンゲの気持ちは。
角が立つぐらいで止めると、混ぜ不足。
かといってボソボソになるまでいくと混ぜ過ぎ。
ミキサーで混ぜていて、ミキサーから感じ取れるメレンゲの硬さが、少し重く変化し、その次にさらに重く変化した瞬間が、一番成功率の高いメレンゲでした。あかんわこの偽パティシエもダメだわ曖昧だわ。
人生で一番、シフォンケーキに真剣になった二週間でした。
累計で、卵50個以上消費しました。シンクが卵の殻だらけになってました。
前日。
プレーンのシフォンと、紅茶のシフォンをそれぞれ3つずつ焼く予定でした。
元々、ココアのシフォンを焼く予定を、難易度を下げてプレーンにしたというのに、成功率は5割程度。紅茶に限っては、ケーキの型がいつもより小さいことに気がつかず、分量間違いでえらいことに。全滅かもしれないけど、とにかく合計6個は焼いた。
俺は相当にヘコんだ。
みんなに「シフォン得意だし!」と大見得切ったのに。
あんなけ毎日練習したのに。
このどうしようもない結果。
仲間たちにメッセンジャーで「ごめんシフォン失敗しました部分的にしか使えないかもしれません本当に生まれてすみません」と連絡した。
即座にレスがあったので、恐る恐る開いてみたら、カットしてツリーみたいな形にしたらどうかとか、カットした部分を集めてクリームとヨーグルトなんかでパフェにするのも面白いかもーとかいうようなレスでした。
失敗した俺をなじるでもない。
慰めるでもない。
ならばケーキは諦めて料理をがんばりましょう的な言葉でもない。
現状を受け入れ、そこから何か出来ないかと提案してくれる仲間の言葉に、泣きました。多分、俺が一番欲しかった言葉だったと思います。
その言葉で、俺もようやく立ち直り、あれやこれやと対処法を考えられるようになりました。
仲間が優秀なら、組織のリーダーがカスでも素晴らしいチームとなる。カスリーダーの俺は、改めてそのことを強く感じました。
あと、言ってることは後ろ向きだけどやってることは前向きだな、と思いました。