俺のおみや

山の単独行って、危険なんですよね。
単独行好きの方の中には、臨機応変に計画を変更しやすい、中止にしやすい、ペースを守れるなどの理由から、単独の方が安全だ！とキレ気味に主張される方もいらっしゃいます。
確かにメリットもあるんですが、複数人ならなんとかなるトラブルも、独りだととたんに生死に関わったりするんですよね。
たとえば転んで足捻挫した。連れがいれば肩を借りたり助けを呼んでもらえるけど、独りだともうそれだけで行動不能。ヘタすりゃその場で一晩過ごす羽目にもなりかねない。

本当はみんなでワイワイと楽しく登山したいけど、性格の悪さゆえに友達が極端に少なくて、でも見栄はって単独行が好きなフリをして毎回泣きながら独りで山に登る俺ですら、山は単独は避けたほうがいいと普通に思う。

低い山なら、足がダメでも究極奥義ハイハイにより、何とか下山することは出来る。
出来るけど時間がかかりすぎて、下山した頃にはあたりは真っ暗。バスは当然無い。仕方なく歩道をハイハイのまま駅を目指す道すがら、その界隈に住むおじいちゃんにばったり出くわし、双方ともに大層ビビる。テンパった俺はハイハイの体勢のまま、いやいやあのそのあのそのコンタクト落としちゃってとか意味不明な言い訳を繰り出した後、事情を説明して、優しいおじいちゃんに家まで送ってもらったりする羽目になったりするので、やはり単独行は危険だ。
そしてこれが高い山なら、究極奥義ハイハイといえども児戯に等しい。

アルプスとか行きてーなー。３０００メートル級の山とか行きてーなぁ。
なんたって雄大さが違うよなぁー。
でも友達いないしなぁ。
と、日本の山の写真を眺めては、ため息をつく日々。

そこで最近出来た、まだ俺をわりとキモくない男だと誤解している友人が、ＧＷに唐沢に行くというので、これを逃す手は無いと物凄い勢いで、一緒に行きたいとアピりまくった。
相手が軽く引くぐらいお願いした結果、連れて行ってもらえることになった。

今回の山行は、俺を含めて合計３人。この３人で数回、テン泊登山は経験済み。
１人は年齢不詳のおじさん。多分５０代中盤ぐらいか。
若者のような体力はないけど、山に詳しい。
もう１人は俺と歳の近い女性。山ガールというとキレる。
重さマニアで、山グッズのグラム数を完璧に把握している変人。それ以外にも色々と変人。無駄に美人。

今回の唐沢にあたり、リーダー（おじさん）が、歩く時間が長いのでテントは大きいのひとつにして、みんなで分散して運ぼうという話が出た。
テントひとつ！？
えええええいやいや男２人に女１人やん。夫婦でもない男女が一つ屋根の下で一夜を明かすとか、そんなことが山では許されるわけ？
激しく動揺する俺をよそに、グラム女もあっさりと承諾。
えええなんなんー。この２人もしかして付き合ってんの？やべー俺空気読んで当日は腹痛とかでキャンセルするべきなの？
だって三人川の字になって寝るとして、もしかすると寝袋挟んで隣に女性がいるとか、それって先にご両親に挨拶とかしとかなあかんレベルじゃないの？

ムーリー。
おっさん三人とかなら「狭い！男臭ェ！」とか言って笑ってればいいけど、１人は女だよ？
テント内で、何もしてないのに突然彼女に「痴漢！誰か助けて！」とか叫ばれたら俺の人生終わらね？
女性と同じ部屋で寝泊りするのは、結婚してからだってばっちゃが言ってた。俺はそれを忠実に守ってる。守る気はサラサ無いのに、破る気満々なのに何故か守ってる。

俺がやんわりと、テントは別々にしませんかとリーダーに打診した。重さが問題なのなら、どんなに重くなっても俺が全員分のテントとか飯を持ってもいいからと、そこまで食い下がった。
だけど
「重いしイヤ。あと場所無いし」
と、非常にシンプルに却下されました。

それからも俺とリーダーの、水面下での攻防は続いた。
でもコトゴトク却下。あんまりにも俺が「テントは個別！」主張がしつこいせいで、なんか返信のメールから「こいつなんなんマジうざいんですけど」系の臭いすら漂ってきた。
もう駄目だ。俺の負けだ。
そうとなれば、同室の方々に不快感をなるべく与えないよう、徹底的に準備をするしかない。
とりあえずイビキしないよう、寝てるときは濡れた和紙を顔に置く事で対応する。
体の臭いは、ファブリーズと８×４を浴びるように吹き付けてしのごう。
でかい体が邪魔なので、小顔ローラーをサボらず続けよう。

と、敗戦処理に余念がない日々だったのだが、直前で唐沢で雪崩があり、横尾より上の入山禁止となった。
雪崩が怖い我々はあっさりと場所を変更し、もう少し難易度の低い西穂高となった。
西穂高ならアルプス初心者にも問題ないらしいし、移動時間も短いからテントも個別になった。

幸か不幸か、雪崩による計画変更のおかげで、心配事が綺麗に消えました。
心配事が消えたら、初めての北アルプスが俄然楽しみになってきた！

続き。