俺のおみや

バイオリンを始めた頃、先生によく
「右手の小指が使えていない」
って指摘されてました。

そして気が付けばそれから７年がたった今、先生によく
「右手の小指が使えていない」
って指摘されてます。

人間というのは学習し、成長するものです。
たとえば山に出かけて、誤ってワライタケを食ってしまった人は、次は気をつけようと悲痛な面持ちで反省するしょう大爆笑しながら。
それはひとえに、自分自身の過去の経験から学んだからです。
これをすれば痛い目にあう、こうすると不利益になる、ということがはっきり分かっているからこそ、それを避けるようになったわけです。

いや、俺かて分かってるんですよ。
弓を上手く持ってないせいで、絶望的な音が壊滅的になってる事は。
なんせこの間、習って一ヶ月という人の音聞いたんだけど、その人は既に俺が目指す頂にいたからね。軽くヘコんだわ。

なんかね、先生らは「小指を使って弓を支える」とか言うんですよ。
でも、どう考えてもおかしい。
弓は指でつまむようにして、あるいは包み込むようにして持つわけですよ。
こ んな感じで。
必要なのは、挟む力じゃね？
これに小指なんていらなくね？
あと「弓は小指で操作する」とかも言わはるんですわ。
意味わからん。
弓の操作は、弓を持つ手とか肘の角度でするもんだろ常識的に考えて．．．
まったく、芸術家の言うことはサッパリわかんね。
あの人らには一体何が見えているんだろうか。ソースコードを開示して欲しい。

というわけで俺はこの７年間、先生方のありがたい忠告を軽く聞き流し、小指なんてほぼ使ってなかった。実際、キザ男みてーに常に小指浮かせて弾いてた。

それがね。
ある日、唐突に理解できた。
なんで今まで分からなかったのかが分からないぐらい、小指にキッチリ弓の重みが感じ取れるし、操作も出来る。
小指を添えるような形で弓を支えたら、むっちゃくちゃ安定するのな。
弾いてる時、弓ってのは常に小刻みに震えているのが当たり前だと思ってたんだ けど、どうやら違うらしいのな。
なるほど！だから他の奴らの音は綺麗なのか！
あれ？でも俺の音、少しはマシになったけど相変わらず酷いん ですけど．．？

先生方。
７年経って、ようやくあなた方が言っていた事が理解できるようになりました。
普通の人は１５秒ぐ らいで理解するんでしょうが、俺は７年かかりましたよあはは。

俺の前世は多分、天才的なバイオリンガーだったんだと思う。葉加瀬太郎とか。
そのツケを現世で払わされてるんだわ。間違いない。