俺のおみや

今よりは遥かにマシだが、子供の頃の俺は相当に頭が悪かった。
勉強というものが極端に嫌いで、授業もまともに聞かないし、塾なんてもってのほか。
そのため、通知簿に付けられた成績は
「えっ？俺だけ５段階評価？」
という感想が漏れるほど、酷い有様でした。

保育園の頃受けたＩＱテストで、ハンパない成績をたたき出し、ゆくゆくは学者か大臣かと期待されていた。
にもかかわらず、紐解いてみればこの有様。
あまり勉強のことにとやかく口を出さないおかんも、さすがにこのままではゆくゆくは犯罪者か鳩山政権かと危機感を持ったらしく、家庭教師をつけることになった。
確か小学校４年生ぐらいの頃。

家庭教師は、姉貴（教育大学部）の友人で、たまに家に遊びに来ていた人でもあった。
この人に、全教科を見てもらうことになった。

なぁなぁで始まったものの、今思えばかなり良い先生だったように思う。
普通に教科書を使って問題を解かせるようなことはほとんどせず、迷路なんかで遊ばせつつも、その実きっちりと正解を導くための勉強を仕組んでいたり、本嫌いだった俺に、熱中できる本を教えてくれたり。
ただし、当時としてはそんな事全く考えられず、ただただこの時間が面倒だった。
はじめのほうこそ真面目に、与えられた宿題をこなしていたものの、段々と俺本領発揮で、怠けるようになった。
そしてある日、与えられた宿題読書感想文を完全にシカトした。

そしたら、先生が怒った。
そして俺は泣いた。
その間も、先生は延々と俺に説教を続けた。
お母さんは、たくさんお金を私に払ってるんだから、真面目にやらなきゃいけないとか、前はあんなにあった宿題をちゃんと終わらせてきて凄かったじゃないとか、ひとつひとつが心に響く説教でした。

にもかかわらず俺は、その間全然違うことを考えていた。
ほとんどもう泣き止んでるんだけど、無理やり泣くのを延期し続けた。
横目で時計を見ながら、泣き終わって勉強になるのは嫌だから、このまま終了時間までもっていったれ、と考えながら。

結局これがきっかけで、家庭教師は終わってしまった。
先生はおかんに、やはり姉の友人ということでナメられたのかもしれないと、残念そうに言っていた。おかんは影で、どうしても勉強しない俺に泣いた。それを見て俺も泣いた。

俺が宿題をしなかった事で、みんなが不幸になった。

それからというもの、何か宿題を与えられるたびに、先生の説教を聞き流して、嘘泣きで時計をうかがっていたあの場面を思い出す。
その度に、おかんにも先生にも申し訳ない気持ちでいっぱいになって、涙が出る。
だからこそこれまで、どんなに忙しくても、課題は確実にこなしてきた。

だけども。
だけども、ですよ先生。
年末のレッスンまでに、ザイツ完成させてこいとか絶対ムリムリ。
100小節近くあるこの曲に、まだ30小節目までしか弾いてないのに、1000ぐらいダメだしされるやん。

ちなみにこれです。

無理。人間には無理。
人は空を飛べないのと同じぐらい無理。