俺のおみや

本番当日。

時間通りに集まって、みんなでぞろぞろとそれぞれの控え室へ。
その時、会社の同僚に声をかけられる。
発表会に参加する会社の同僚は二人いて、どちらもＪＡＺＺ・ＳＯＵＬのクラスで出る。
二人ともそこそこ経験があり、おまけにすこぶる美人。
普段会社ではそんなに喋らない上に明るい美人なので、前世深海魚である俺にはまぶしくて、目を見て話せない。あっちの目には俺は挙動不審で、多分すげーキモく映ってると思う。まぁそうでなくてもキモいがな。

んでなぜかちっこいチョコレートをくれた。おいしくいただきました。
それと共に「昨日リハ見ましたよ。○さん（もう１人の同僚）と二人で」と、破滅の言葉をかけてきた。
ギャー言うな！絶対感想を言うな！
こんな直前に「めっちゃキモかったですよ。あとキモかったです。大事なことなので２回言いました」とか言われたら、もうマジで泣いてしまうわ。
分かってる！分かってるんだよ全部！お願いだから言わないでくださいなんでもしますから（足にすがりつきながら）
って心の中で大絶叫してた。
そんな俺の努力もむなしく、あっさりと言われた。
「めっちゃ踊れてますやん！」
うん、そうだよキモかっ．．

え？

まじで？

ＭＡＪＩＤＥ？

その後も、何度もかっこいいとか１年経ってないのにすげー踊れてたとかGET DOWNもしっかり出来てたとか、大絶賛好評発売中。
他人にあそこまで褒められたのは、生まれて初めてでした。
この後ツボとかラッセンの絵とか売られるんじゃねーかと思うぐらい、まぁそれもやぶさかではないかなと思えるぐらい、べた褒めされた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ！
キタキタキター！！
テンションうなぎのぼり！
しっかり踊れる人（しかも憧れの美人）にそんな評価をいただいてしまったら、そりゃあテンションも上がりますわ！
控え室に光の速さで飛び込み、鏡の前でフリをやってみる。
おおっ！？俺もしかするともしかして、クロスハンド上手くなってる！
１日１００回やったら、そのうち上手くなると先生に言われて、会社の休憩室で練習しまくった日々。
たまに人が入ってきて、あわててストレッチに切り替えたりした日々。
いつの間にか、キモさがずいぶん薄れてる！
俺もしかして、いけるんじゃね？
ＧＥＴ　ＤＯＷＮの失敗も、実は目立ってなかったみたいだし。
一応、最後まで完成しなかったときのために、ごまかせる技術も磨いておいてよかった。
保険は大事。

しかし、控え室って楽しいなぁ。
人前で踊っても、誰もとがめたりしないし。
これが外とかで踊ろうものなら
「おいおい、俺のＭＰ吸いとるなよ」
とかって誰かに怒られるだろうし。

ゲネプロ開始。
俺はすぐに出番なので、いきなり袖待機。
この袖がまた、喉が渇くのな。
ステージにはスモークみたいなのがたかれてるんだけど、多分これ二酸化炭素だよな。
待ってる間、ノドめっちゃやられる。
そして「ズボンの位置が高い」と、同じクラスのイケメンに言われる。
下げてるんだけど、踊ってる最中に落ちたらどうしようとビビってしまい、どうしても上に上げてしまう。
だってよー。ダンスが出来る出来ないはおいといて、ステージ上でズボン脱ぐとか、どんなけ壮大なセクハラやねんって話ですよ。
その後もいろんな人に「高すぎる」と指摘された。
勇気を持ってエイヤっと下げてみて、鏡を見てみる。
おお！ちょっとかっこいいかも偏差値低そうだけど。

ゲネプロ出番。
全身全霊をかけたＧＥＴ　ＤＯＷＮは、見事に失敗。
スモークで思い切りノドをやられながら、最後の練習は終了。
あまりにも口の中がカラカラになって、途中で
「あ、最後まで踊れないかも」
とか本気で思った。
この経験を活かして本番では、直前まで水を飲みまくることとしよう。

その後は昼を食べたり他の人のダンスを見たりして、ぼーっとすごす。
やべぇ眠い。
でも、同じ楽屋の子に、眠ったら踊れなくなるってアドバイスをもらってたので、がんばって起きてた。これ以上不安要素を増やすわけにはいかぬ。せめてベストコンディションで。

いよいよ本番開演。
控え室からはテレビでホールの様子が分かるんだけど、開演と同時にものすごい数の人がなだれ込んできた。
今年は日が良かったのか大盛況で、当日券も売り切れたとか。
ひー！このホール１０００人入るんやでー。それが売り切れとかありえない。

とまぁ控え室で客の入りを見て騒いでいたんだけど、出番がすぐなのですぐに出陣命令が。
そして早速、舞台袖へ。メンバー集合。
円陣を組んで、みんなで手を重ねる。
さすがにちょっとだけ緊張した。
けど、めちゃくちゃ上手いはずのほかの奴らも、緊張しまくってる様子なので、逆になんか気が楽になった。俺はどーせミスるしね。棒立ちにならなかったら御の字よ。

ＭＣに紹介され、暗い中こそこそと配置へ。
ああ、いよいよなんだなぁ。ここからの５分間の為に、俺なりに頑張ってきたし。
音が出た瞬間、黄色い声援が飛んできた。
おお、俺も呼ばれねーかなーと、呼ばれたら手ぐらい振ろうと待ち構えていたが、一切呼ばれませんでした。ま、まぁ黄色い声を出せそうな友人を呼んでないからなぁ。

そして本番！
もうね、むちゃくちゃ楽しかった。
光と熱気と重低音に晒されて、ステージで踊るのは。
音が消えた一瞬とかに、客席の呼吸みたいなものが伝わってくるのな。
ああ、みんな観てるんだー。この俺のへっぽこダンスををををを～！おらー！ＭＰよこせ！
予想通り、訳の分からないところで間違えたりしたけど、そんなの正直どーでもよかった。
曲の最後のほうになったら「ああ、もう終わるのかぁ」と少し寂しい気持ちに。
アンサンブルの時に、たまにこんな感覚を味わえるけど、まさかダンスでこーなるとは。
もうなんか楽しすぎて、ずっと笑ってた。

そして終わった。
あー終わったーと思うまもなく、客席から拍手が。
お客さんの事を完全に忘れて楽しんでいたので、われに返ってビックリした。
あ、いたの？って感じで。
多分、ちょっとビクってなってたと思う。
社交辞令でも拍手されるのとか、単純に嬉しいねぇ。

ゼーゼー息を切らせながら、おつかれーとかみんなに言われつつ控え室へ。
まずは水をがぶ飲み。やはり控えてる最中に喉が渇いて、スモークに喉をやられた。

冷静に振り返ると、思い切り間違ったのは２箇所。
それでも棒立ちになったわけじゃなくて、アップロックするところをトゥエルしたとか、そんな程度。
まぁそんなもんだろうな。俺にしてはよくがんばったよ。

もうあとはフィナーレで全員がステージに上がる時まで出番なしなので、控え室で食事とかしてた。

２つとか３つとかのクラスに出ている人もいて、楽屋は常に人の出入りがある。
すげーなぁ。２つとか今は絶対無理だわ。
でも１つだと暇だな。来年は俺も２つ出てみようかなぁ。

もう終わったのに、なんか名残惜しくて鏡の前で練習したりしてた。
そうすると、なんか上手く出来たりするのな。
今更ながら、リズムの取り方が分かったりする。
何故今なんだよぉ！

そしてフィナーレ。
舞台袖で並んでいると、同じクラスの小学生がずっと泣いてる。
どうやら、ミスを悔やんでいるらしい。
おいおい、一箇所のミスで泣いてるんやったら、俺なんか深刻な海面上昇を発生させてしまわなあかんほど大号泣せなあかんやんけ。
しかもその子、泣きながら、
「自分のミスはいい。だけどみんなに迷惑かけたのが申し訳ない」
とかゆーのな。
小学生が「申し訳ない」って！
俺多分、小学生の頃に「申し訳ない」なんて日本語、知らなかったぞ。
俺のあの頃のボキャブラリーなんて
「ほんまやなー命かけるかー」
「この前、頑張ったらカメハメ波出た」
「けーんじくーん。あそびましょー」
ぐらいしかなかったからな。
申し訳ないとか、どんなけ大人やねん。

先生が現れて、その子を慰めながら話を聞いてた。
もう１分後にはステージに出るってところで、
「真ん中まで行ったら、そのミスった技をみんなでやろう」
とか言うんですよ。もう一度やり直して、ミスを払拭しようってわけですよ。
ど　ん　な　け　優　し　い　ん　で　す　か　こ　の　人　は。

もちろん１分前に指示された技を俺が出来るはずも無く、グダグダしてた。
でもその子は成功したみたい。よかった！

終わって、ロビーで友達と会った。
ここでもかっこよかったと言われて、図に乗る俺。
いやー。今日は１００年分ぐらい図に乗ったなぁ。

後日、もう１人の同僚に会ったときにも褒められた。
「見直しましたよ」
とか言われた。
いや、仕事以外で見直されても．．．
ってかやっぱり今まで、見くびってたのか．．そーか。そーだよな。

ではまた、次のお祭りへ。