俺のおみや

高熱と流動食が採れないことにより、人生において、もっともヘコんだ１週間。
ついに熱も下がってきた。
ゆーても３８度ぐらいはあったけど、今までに比べたら遥かに人間らしい思考ができる。
今回の、俺の独自の調査によると、３８．８ぐらいが臨界点で、これを切るか上回るかで、人間に熱があるのか、熱に人間が付いてるのかが、変わってくるようだ。

そして、口の傷も塞がったという事で、口から出ていた血の管が取れた。
これでようやく、荒れ放題腫れ放題だった、唇も回復に向かうであろう。

これが取れて、さらに点滴も取れた。これで体から管がなくなった。
熱の低下も相まって移動が楽になった上に、歯が磨けるようになった。
ほとんど食事をしていないとはいえ、毎日の習慣である歯磨きが妨げられるというのは、けっこー嫌。
口の中が気持ち悪い。ついでに顔も気持ち悪い。健康になった今も。
相変わらず歯が縛られてるので、ほとんど申し訳程度にしか歯磨きできない。
今まで知らなかったんだけど、口が閉じてると、奥歯とか磨けないのな。
そういえば奥歯磨くときって、口を開いてるんだわ。
それでも、今まで出来なかったので、ちょっとだけスッキリ。
でも、歯の裏側は磨けなくて、そこになにかうねうねと溜まってる感じがあって、とっても不愉快。
でも顔も洗えるようになって、とってもスッキリ。

こうなってくると、ようやく人間らしく、困難を克服しようという力がわいてくる。

目下最大の困難は、流動食である。
俺は考え、一つの結論を出した。

口が開くまで、予定ではあと一週間。
それまで、食事をすべて止めてもらう。
食えないなら、止めてもらうしかない。

食事を取らなければ、当然人間は生きていけない。
しかしもちろん、一食抜いたら即、死にいたるわけではない。
人間はまず、栄養が取れなくなると体内の脂肪を燃やしてエネルギーに変換し、同時に代謝を落として生きるのに必要なエネルギーを少なくしようとする。
そして燃やせる脂肪がなくなると、今度は筋肉などをエネルギーに変換する。
ここまで行くと危険なので、そうなる前に止めなければ。

一体、人間はどれくらい食事しなくて生きていけるのだろーか？
本来ならググれば一発解決なのだが、病院内でインターネットを使える環境が無いので、素人の浅知恵でなんとかするしかない。

俺の体重が７２キロ。
体脂肪率が１８％だったから、単純計算で７２キロの１８％は約１３キロ。
つまり、俺の体には１３キロの脂肪が詰まっていることになる。
１キロの脂肪を減らすのに必要なエネルギーは9000kcal。
１３キロすべてを減らすためには、9000×13で117000kcal。
１日に必要なカロリーが2000として、117000÷2000で58.5日。

この計算で行くと、カロリーを全く摂取しない状態で、俺の脂肪がすべて燃え尽きるまで５８．５日。
この日数までは、水だけで生きても、それほど命に支障は無いということになる。
あと一週間で口が開くし、食事も取れるんだから、余裕過ぎる。

しかしこの計算、ほんとに大丈夫かなー。
気になったので、看護師の友達にメールでこの計算を伝え、聞いてみた。
返事は
「よくわからん」
使えねー。俺の命がかかってんだから、もう少し真面目にとりあってくれよ。
それでよく天使やってられんなー。

まぁとにかく、この計算に気をよくした俺は、天使に食事を全面的にストップしてほしいと伝えた。
もちろん筆談、というか手紙である。
甘すぎて死ぬる、ということを延々とつづった手紙である。
全米が涙する手紙である。星明子も泣いてる。








流動食を止めたので、気持ちはものすごく晴れやかになった。
定期的にやられる血液検査の結果は、貧血とか色々出てて散々たるものだったが、そんなの気にしない。

当然のことながら、面白いように体重が減っていく。
大体４日で１キロペースで減っていった。
１日2000kcal×４日で合計8000kcal
１キロが9000kcalで消費するから、なるほど俺の計算と大体合ってる。
とうとう、元の体重から５キロ減った。
でもまだまだ俺の脂肪在庫は豊富。こんなこともあろうかと、大事に大事に貯めておいてよかった。
ジムに行ったり走ったりして、必死に減らそうとしてても減らなかったのは、この日のためだったのか。
俺の脂肪は、先の先まで見越して、ガンとして体内に篭城ってくれたんだな。ありがとう。

５キロとか減ると、体がむちゃ軽いのな。
ヒマなのと運動不足解消に、階段を６階まで駆け上がるトレーニングをしてるんだけど、体が軽くて楽しいの。
しかしやっぱ、水はとってるとはいえ、摂取カロリーゼロはまずいよな。

ここから、いかにしてカロリーを摂るかを模索しだす。