痴漢の冤罪の話です。
悪人は一人も出てこないのに、ものすご救われない話でしてね。
痴漢冤罪ってこぇぇなー。
検察側に、確実にやったことを証明する必要は無くて、確実にやってないことを証明する必要があるわけなんですよね。出来なきゃ有罪。犯罪者ですよ。
もちろん、やってないのに痴漢の犯人にされちゃ、わてらフツーの男はたまったもんじゃないですけど、それよりなにより、痴漢をやるような腐った男が世に蔓延しているって事が、そもそも問題なんですよね。
俺はちょっと頭おかしいので、他人の体に触って何がうれしいのか、そんなん気持ち悪いだろ、とか思うんですが、そーは思わない男が大半なのは、重々知っております。
電車で、女性車両が出来るって聞いたときは、なんだか同じ男として恥ずかしい思いでした。
でもちょっと、不思議に思いませんか男性の皆様。
よく痴漢体験を語る女性が
「怖くて声もあげられなかった」
とかゆーじゃないですか。
なんで?
自分は被害者、相手は加害者。明白ですよね。
とっとととっ捕まえて、駅員に突き出すなり、その場でアルゼンチンバックブリーカー極めたり、いろいろ楽しく料理してやったらいいじゃないですか。
世の男性たちの多くは、そう思うわけですよ。
俺もそう思ってました。
そう..あの日。痴漢にあうまでは。
あれは大学生のころでした。
俺は滋賀から大阪の大学に通っていて、1コマ目の授業に出ようと思うと、6時とかにもう電車乗らないと間に合わないんですよね。
その日も1コマ目から授業のある日でした。
眠い目をこすりつつ、8時ぐらいの電車に乗ったんです。ええ、盛大に寝坊しましてね。
そのときは、ドアに入ってすぐの、縦長の手すりがあるところに、社内に背を向けて立ってました。
肩から斜めにかけたカバンを、前に回してね。
後で知ったんですが、俺が立っていた位置は、いわゆる痴漢ゾーンと呼ばれる地帯ですね。
痴漢に狙われやすい位置なんだそーです。
男なんで、そんなこと意識したこともありませんでした。
そのうち、なんか左の尻に違和感を感じました。
最初は硬いもの、なんか肘みたいな硬さのものが、ずーっと押し付けられていたんですよね。
まぁ、満員電車だし、女性のカバンかなにかが当たってるんだろうとか思ってました。ああいうの硬いですしね。
すると、そいつがなにやらトリッキーな動きを始めたんですよ。
そこらあたりで、ようやく俺も「あれ?」と思いましてね。
今まではボケーっと、耳につっこんだイヤホンから流れてくるヒスブルに聞き入っていたんですが、俺の尻感度を最大限に高めて、この現象の調査に乗り出したんです。
もうね。明らかにおかしい。
俺の左尻を何かが縦横無尽。氷上の荒川静香ぐらい縦横無尽。
いくらさりげなく尻を振っても、バスケ選手のゾーンディフェンスみたいに、ぴったり張り付いてくんの。
ディフェンスに定評がある綾南の池上もビックリの、フェイスガードですよ。
それの頭の中で「痴漢にあう自分」という内容が、どうしても理解できなくて、その回答にたどり着くのが遅れたんですが、ようやく
「えっ?もしかしてこれ痴漢?」
って気づいたんです。
そのころの俺、人生最大級に血気盛ん。
合気道部に所属し、毎日のように喧嘩かシゴキかわからん特訓を先輩から受け、もう隙あらば誰かを思いっきり投げ飛ばしたくてしょーがない時期。
おまけにその前の月、恋人との口げんかに大勝利してフラれてるし。
さらに彼女んちの猫と本気で喧嘩して、奴を一時的にベランダに逃げ込ませることに成功したし。ちなみに喧嘩の原因これ。
もう、かなりアウトロー。
売られた喧嘩は、買い取って友達に売ったらその友達も友達を連れてきて、明日には1000兆円ぐらい手に入る計算するぐらいアウトロー。
そんな俺でも、マジ怖くて声も出せねーの。
最初に思ったのは、
「もしも痴漢だと指摘して、本当は痴漢じゃなかったらどうしよう..」
という思い。
後は単純に怖かった。
相手が全然見えないので、それが怖かった。
女なのか?それは怖い。男なのか?それはもっと怖い。
ここで大騒ぎして、事を荒立てたら面倒な事になるし..
ここで俺が何も言わなければ、すべて収まるわけだし..
そんな思いが頭の中をぐるぐるしてました。
結局、何も出来ないまま次の駅に。
降りる駅じゃなかったんですけど、降りて階段に向かいました。
電車を降りても、そいつが後から着いてきている気がして、改札でたら走りました。
もちろん追いかけてきたりはしませんでした。
女性専用車両。大いに賛成です。
男性差別とかいう意見もありましたが、いっぺん痴漢に合えばわかるかと。
あれは怖いよ。ちゃんと対応できる人は凄いよ。