スキューバ・ダイビングでよく言われる「ライセンス」というもんは、実はライセンスではない。
そもそも、海に入るのに資格など不要。
ただ、現状ではそれが無いと、タンクを貸してもらえないというのが世の慣わしであり、結果的にダイビングをすることができなくなる。まぁ自分でタンクを買って、チャンバー(空気入れる施設)を建設すればいくらでも潜れますが。3000万ぐらいするらしいけど。
通称Cカードとよばれるその「認定書」には、ランクがある。
このカードを発行している団体が世の中にはたくさんあって、団体によってもランクの数や、名前は違ってくる。
PADIではこんな感じ。
オープン・ウオーター → アドバンスド・オープン・ウオーター → レスキューダイバー → 忘れた。
決まった時間の講義を受けて講習を受ければ、よっぽどの事が無い限り誰でもランクは上げられる。
上級ランクになって、何かいいことがあるかといわれると、多分ほとんど無い。
よーするに、いくらお金をつっこんで来たかという指針にもなったりする。
上級ランクでありながらも経験が浅いダイバーが、ものすご足ひっぱるなんてのは良く聞く話。
ダイビングのスキルは、ランクじゃなくてもぐった数である、というのがダイビング界での認識。
俺も最初の頃、講習を受けまくって上級を目指していた頃があった。
今では、なんだか上級クラスを目指す事がアホらしくなって止めたんだけど、プロの最初のレベルであるガイドクラスになるための、スキルを身につけようと努力した事があった。
5年前。2003年頃のお話。
貧弱を極めた貧弱王であった俺は、スポーツジムへと通いだした。
当時していた駅前留学で、講師が揃いも揃ってジムに行ってる奴らばっかりで、ジムの良さとか必要性を、わけのわからん英語とか言う言葉で熱く語ったりしていたので、触発されて行ってみたのが最初。
大体、週に1回。
行っても、2時間もいないぐらい。ほとんどジャグジーの為に行ってるような感じ。風呂大好き。
そんな調子で、数年間適当に通い続けた。
そんな程度の頑張りでは、効果の程は全然感じられなかった。
英語で言うとplay tenisuってきました。
中学生二年生の終わりに、学校が分離したんです。
新たに家の近くに学校が出来て、三年の半分は元の学校に、半分はこちらの学校にと別れたんですね。
俺は新しい学校の近くだったので、そのピカピカの新しい校舎に入ったんです。
1年ぶりに滑ってきました。
思う存分スキーってきました。
俺がやるのはファンスキーとかスキーボードとかいろいろな呼ばれ方をする、短いスキー。
最初は、普通の長いスキーをやっていたんだけど、
運動神経無いのに無駄に高い身長に合わせてやたら長い板を履かされて、滑走開始2秒後には、もう大転倒。
金メダル狙える勢いで、雪山を大騒ぎしながら転げ落ちる様は、周りの皆様を十分にビビらせ、
止めもせずに華麗に避けてくれてた。俺の落ちてく先、モーゼみたいに道が出来てた。
暴走が止められず、豪快にコースアウトして、レスキューのお世話になったことも。
レスキューが来るまでの間、雪に埋もれて身動きできず、ぼんやりと走馬灯ってた。
俺の走馬灯、リピート4回目ぐらい入ってた。どんなけ内容の薄い人生やねん、と。
それから色気付いて、スノボも少しだけやった。スノボすればモテるかと思った。当然断固モテなかった。
とりあえず緩やかな坂でコケない、通称木の葉と呼ばれる状態には成れたけど、
多分ここいらが俺の限界くさい。
そしてたどり着いたのがファンスキー。とってもお手軽。
俺がスキーから身を引いたのは、板が重なった状態になった時の、大暴走がトラウマになったせいだ。
ペケ字直滑降。ロッジにぶつかって止まるまで、700系のぞみとはれるぐらい速度出てたと思う。
アレは恐ろしい。いったん板が重なると、俺の技量では制御不能。
その点、ファンスキーは板が短いので、板が重ならない。
前を見ると視界に板が入らないので、身ひとつで滑ってるような感覚。
最初に友人のファンスキーを借りて滑ったとき、この事実にものすごく感動しましてね、
もうそれ以来、短いスキーばかりやってるわけですわ。
これもとりあえず、コブ以外ではコケないぐらいになったけど、ここが限界くさい。
今回もこのファンスキーを、地元のスキー場でやってきたんです。
数年前に一度、ナイターで滑ったことがあるこの地。
その時はマイナス6℃、強風で体感温度マイナス12℃とかいうアホみたいな数字が、
楽しげに電光掲示板で揺れてました。
おまけにここ、午前2時になるとふもとに下りるための命のゴンドラを停止しやがる。
午後2時を過ぎると、次に下界に降りるチャンスは朝6時。
その間、この標高1000m越えの雪山で、命を繋がなくてはならない。
上島竜兵ばりに「殺す気か!」と叫びたかった。
コースも所々、影になってるところは完全にアイスバーン。
もうシロップかけて食うぐらいしか利用方法が思いつかないほど完璧なアイスバーン。おまけに暗い。
当然、ここに来るとものすごく加速する。
いくら頑張ってエッジを立てようが、まったく減速なしのアクセルべた踏みノンストップアクション。超こえー。
ここを滑ると一瞬、フラッシュみたいに周りがぱぁっと明るくなったりするのは、
エッジと氷から発する火花らしいよ。何度も見たよ。
リフトは強風のため、しょっちゅう停止。
止まってる間、風で右に左にゆーらゆーらと揺られながら、
もう上下左右どっちから来てるのかわからない猛吹雪と戦う。主に防戦一方。
みんな体をちぢこませて、生物として生存のために体力を維持するために、一言も喋らない。
なんだかこのまま眠っちまったら、楽なのかな..そしたらもう辛い事、耐えなくていいのかなパトラッシュ..
そんな気分にさせてくれたナイターでした。
あれから数年。
あの時、共に生還した友人と一緒に、再びここに来た。
今日は天気もいいし、天気予報も晴れだったし、おまけに前は夜だったけど今回は昼だし、
まったく問題ないでしょー。超余裕ー。そんな気分だった。
甘かった。
俺は自分を過小評価してた。俺ってすんげー雨男なんだわ。
社内で野外レクレーションの企画があっても、俺だけ誘われなかったり。これは雨男のせいじゃないけど。
滑り出してから2時間ぐらい。
無風の晴天だったのに、真っ黒な雲がガンガン湧いてきて、一気に吹雪。
いやいや、もうちょっと段階踏もうよ。
やっぱ晴れ→曇り→雪がパラパラ→風が出てくる→徐々に吹雪に
みたいな、こういう流れが正統派でしょう。
それをいきなり、知り合った次の日に離婚届出すみたいな、そんな豪快なスキップはイカンでしょう。
ひとつ、またひとつとリフトが強風のため休止になる。
最後のリフトも、5秒動いて停止、また5秒動いて停止、という状態。
もちろんその間、右に左にふらふら揺れるリフトに座りながら、フリーズドライ製法でおいしく熟成される俺。
なんか、この経験初めてじゃないような気がする。デジャヴって奴か?
あきらめて山を降りたら、着替えてる間に晴天に戻ったよ。
虹とか出てた。